マンション管理士として顧問をしていますマンションで、外壁タイルが下地コンクリートから剥離して落下しそうな状況となっています。
品確法では、
① 構造耐力上主要な部分
② 雨水の浸入を防止する部分
に対して、10年間の瑕疵担保責任期間を住宅供給者側へ求めていますが、タイルが剥がれかかっても外装材の瑕疵として扱われ、対象とはなりません。
先日、他のマンションで、エントランスのタイル仕上げ外部スロープが、その勾配と仕上げ材料により滑りやすく怪我をする可能性が高いという話を伺った事がありますが、これも品確法上の瑕疵担保責任の対象とはなりません。
そこで、不法行為責任にご登場いただく事になる訳です。
過去の判例等では、建物としての基本的な安全性が損なわれた時に、不法行為責任を問えるとされています。「基本的な安全性」とは何かについて、最高裁は、2007年7月6日に不法行為責任の成立の範囲を判示しています。
(1) 建物は、そこに居住する者、そこで働く者、そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに、当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから、建物は、これらの建物利用者や隣人、通行人等(以下併せて「居住者等」という。)の生命、身体又は財産を危険にさらすことが無いような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性と言うべきである。
そうすると、建物の建築に携わる設計者、施行者及び工事管理者(以下、併せて「設計施行者等」と言う。)は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けてることが無いように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。そして、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。
居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない。
(2) 原審(福岡高等裁判所)は,瑕疵がある建物の建築に携わった設計・施工者等に不法行為責任が成立するのは,その違法性が強度である場合,例えば,建物の基礎や構造く体にかかわる瑕疵があり,社会公共的にみて許容し難いような危険な建物になっている場合等に限られるとして,本件建物の瑕疵について,不法行為責任を問うような強度の違法性があるとはいえないとする。しかし,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には,不法行為責任が成立すると解すべきであって,違法性が強度である場合に限って不法行為責任が認められると解すべき理由はない。例えば,バルコニーの手すりの瑕疵であっても,これにより居住者等が通常の使用をしている際に転落するという,生命又は身体を危険にさらすようなものもあり得るのであり,そのような瑕疵があればその建物には建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるというべきであって,建物の基礎や構造く体に瑕疵がある場合に限って不法行為責任が認められると解すべき理由もない。
不法行為責任が認められる場合、損害および加害者を知った日から3年又は不法行為時点から20年と、品確法や、民法上の瑕疵担保責任期間(638条1項)より時効期間が長くなります(724条)。
法的手続き(民事調停においては相手方の合意、訴訟においては裁判所の判断)を待たねばなりませんが、外壁タイルの剥離や滑りやすいスロープあるいは、バルコニーに手すりの瑕疵は、不法行為責任を問える可能性があります。
判決が定着すれば、中古住宅を買った転得者も、基本的な安全性を損なう瑕疵に対しては権利が保護されますので、流通の拡大につながると考えられます。
最近の消費者行政の在り方は、建設業者・設計者より入居者・住宅所有者の立場重視の方向を示しており、今後の司法判断に興味が持たれます。
関連記事:
瑕疵それとも劣化?タイルの剥がれ編
瑕疵それとも劣化?塗装壁のクラック編
関連情報:
■ 最高裁判所第2小法廷損害賠償請求事件 2007(平成19)年7月6日判決(原審;福岡高等裁判所)
建物の設計者,施工者又は工事監理者が建築された建物の瑕疵により生命,身体又は財産を侵害された者に対し不法行為責任を負う場合
■ 東京地裁平成20年1月25日判決
「建築された建物の瑕疵について、設計監理者の不法行為責任を認めた事例」
■ 最高裁判決 平成19年7月6日(判例時報1984号 34頁)(判例タイムズ1252号 120頁)
裁判事例建物の瑕疵と設計者・施工者の不法行為責任
■ 民法709条 不法行為による損害賠償
■ 民主政権点検(2)前原大臣「どちらかといえば評価」が最多